「DESIGN & EDUCATION プロジェクト」
ブランディングから教育につなぐ一貫したプログラム
5年間のキャリア教育を通じて幅広い専門知識と技術力を両立したハイブリッド型人材を育成する高知工業高等専門学校様(以下、高知高専様)は、これからの社会をより良くデザインする“みらい人”の輩出を目指しています。昨今、高専生への期待と注目が集まるなか、2023年には文部科学省の「高等専門学校スタートアップ教育環境整備事業」を背景に、約1年間にわたる教職員研修「DESIGN & EDUCATION プロジェクト」が始動。本プロジェクトの立役者の皆さんに、研修内容の感想とワークショップから得た気づき、効果などについてお話を伺いました。
「DESIGN & EDUCATION プロジェクト」の全体像は下記URLをご覧ください。
https://www.dascorp.co.jp/works/post/ftvw5l8_5dx
■高知高専様
江口 忠臣様 独立行政法人 国立高等専門学校機構 高知工業高等専門学校 校長
赤松 重則様 独立行政法人 国立高等専門学校機構 高知工業高等専門学校 副校長・ソーシャルデザイン工学科 学科長
北山 めぐみ様 独立行政法人 国立高等専門学校機構 高知工業高等専門学校 ソーシャルデザイン工学科 准教授
大塚 陽介様 独立行政法人 国立高等専門学校機構 高知工業高等専門学校 総務課長
■株式会社デジタル・アド・サービス
加藤 誠二/ 内野 恵里/ 荻原 颯
■株式会社ウチダ人材開発センタ
冨田伸一郎/日暮 薫/上田 あゆ美(インタビュアー)
お客様の声
江口校長
教職員の想いを汲み上げながら新しいDPを言語化できたことは非常に意義深く、大きな成果。日々の業務の進め方や学生向けの授業を設計する上でも勉強になるワークショップだった。今回の取り組みをもとに、様々なプロジェクトを進めていくことが、学校全体の活力になる。
赤松先生
ワークショップでの議論や考察が、教職員同士の相互理解につながった。
今回の教職員研修はインナーブランディングの出発点でもある。今のDPの可能性や実現方法を振り返る機会にもなり、本校の「現在地」を再確認できた。
北山先生
キャリア形成科目に対する教職員の意識変容や新たな気づきにつながった。
今後は既存の仕組みとワークショップで出たアイデアを組み合わせていきたい。学生にとっても理解しやすい「共感できるDP」はカリキュラムにも取り入れやすい。
大塚総務課長
教員と事務職員が「教育」について共に考える研修は初めてで、貴重な経験になった。事務職員としてどのように「教育」に関われるのか改めて考える機会になっていた。全学が同じ方向を見て仕事をすることの大切さに気づくワークショップだった。
新しい教育も、ありたい姿も「対話」から始まる
本校では学科再編以降、“社会をデザインする人材”の育成を主眼に、学生が自ら課題を見つけ、解決するプロセスを経験し、様々なことに挑戦できる“一貫性のあるキャリア教育”を行ってきました。今回のワークショップで作成した「共感できるディプロマ・ポリシー※(以下、共感できるDP)」にもあるように、社会から求められる人材には、冒険心・好奇心・協働力・価値創造力が必要です。このような人材育成を学生と教職員が協力し合い、全学が一体となって実現できる学校にしていきたいと考えています。
かつてない研修が相互理解を深め、意識を高める
さらに当社は、長年にわたってインストラクショナル・デザイン※(以下、ID)や教育設計に関する専門知識を提供してまいりましたので、学校ブランディングから教育につなぐ一貫したプログラムを「DESIGN & EDUCATION プロジェクト」と銘打ち、全3回のワークショップをデジタル・アド・サービス社と共にご提案いたしました。
本プロジェクトを通じて得た気づきや感想、先生方の反応などについて教えてください。
従来の研修ですと、先生たちは成功事例や失敗事例を“聞くだけ”で終わることが多いですが、今回の研修は事前課題に取り組んだり、教職員のパーソナルDPを振り返ったり、改めて自分が何を考えているのかを共有するワークがとても新鮮でした。他の先生のパーソナルDPを聞くと、表現は違っていても、意外とみんな考えていることが同じで、それが分かったことが一番良かったことです。
ワークショップの様子をまとめた動画を見ると、教職員が本当に楽しそうに取り組んでいる雰囲気が伝わってくるので、中学校の先生や保護者、入学予定の中学生にも、このムービーを視聴いただいて「先生が楽しそうにやっているな」と感じてもらえたら嬉しいです。
ワークショップの内容は、今後の授業設計にも生きる
内容にも満足していますが、今後の業務の進め方や教職員が学生に向けて授業を設計する上でも勉強になりました。ワークショップ自体は一般的な形式ですが、未経験のことを実践するのは簡単ではないので、内容と方法の両面で意味があった研修だと感じています。
教職員の想いから指針を言語化した「共感できるDP」
今回の研修で「共感できるDP」を言語化できたことは非常に大きな成果ですし、その内容は入学式の式辞にも取り入れました。それほど良いものができたと感じていますし、高知高専が元々目指していたものが「共感できるDP」に表現されています。今後もこうした取り組みを継続し、適宜見直しや新たな策定を行える学校にしていきたいです。
高知高専には志をみつけた学生をバックアップする仕組みがありますが、たとえば、低学年から参加できる高専生向けのコンテスト「全国高専デザコン」や「ロボコン」は、就職や進学がまだ先の低学年の学生にとっては身近な目標になります。「共感できるDP」は、こうした取り組みに学年問わず挑戦できるフレーズになっていると思いました。
今回作ったDPは、入学時から学生の意識に直結し、卒業後も心に残る言葉になるかもしれません。教職員の皆さんの想いを「共感できるDP」に言語化したデジタル・アド・サービスさんからも感想をいただけますでしょうか。
今回の取り組みは、“ただ言葉を作り上げて終わり”というものではなく、「共感できるDP」を今後どのように活用していくか、その運用方法にも意識を向けることが重要だと考えています。先生方が積極的に第三者に伝えたくなるような言葉、そして対外的にも認知され始めた新しい指針をもとに、今後も様々な取り組みを一緒に進めていきたいです。ありがとうございました。
既存の仕組みと、IDの手法を組み合わせた進化を
ワークショップでは、議論好きな先生が多い中、他者の意見を真摯に受け止め、否定せずに議論を行う姿勢もありました。多様な意見が出されましたが、傾聴と尊重の気持ちを持って共通の目標に向かって統合されていく点がとても良かったですし、全体的に見て、他者の意見を上手に取り入れてDPを作成するプロセスが教職員の活気を高める根本的な要素になったのだと思っています。
現在、高知高専では評価の高い授業を録画し、先生が工夫している点や学生からの評価ポイントをテロップで表示した動画を作成しています。「動画を視聴した他の先生が、学生が良いと思う評価ポイントに気づいて教材化していく」という仕組みがありますので、今後はその仕組みと今回のワークショップで出た意見やアイデアを組み合わせていきたいと考えています。
教員と事務職員の想いを重ね、共に同じ未来を目指す
教員と事務職員が「教育」について考察することをテーマにワークショップを実施いたしましたが、こちらについても感想やご意見をお聞かせください。
他の班では、普段は直接的に学生に関わらない職員もいましたが、ワークショップの最終発表を聞いていると、自分が間接的にでも「教育」に携わっていることを認識する機会になっていたようでした。
我々事務職員も研修自体は数多く行っており、機構本部や四国地区の研修ネットワークを通じて様々な研修を受けていますが、教員と事務職員が一緒に「教育」について考える機会は今回が初めてでした。今回の研修で、他の部署の人と話したり、先生から直接話を聞いたりして、事務職員自身の業務が「教育」にどのように貢献しているかを改めて理解できたのは、他の研修とは異なる貴重な経験でした。
研修成果を活かし、学校ブランドを強化したい
今後、高知高専様が取り組んでいくことや、教職員の皆さんへ期待していることがございましたら教えてください。
本プロジェクトにより、一層、本校の教育方針が可視化されましたので、次のステップとしては、学生に向けて、これから身につけるべきことや考え方、我々教職員がどのようなことを行っていくのかを伝えていきたいです。“みらい人”になる学生には、自分のことや周りのことを理解し、学んだ技術を活かして世の中に貢献する人材になってほしいと願っています。
※ディプロマ・ポリシー:各大学,学部・学科等の教育理念に基づき,どのような力を身に付けた者に卒業を認定し,学位を授与するのかを定める基本的な方針であり,学生の学修成果の目標ともなるもの。「アドミッション・ポリシー」「カリキュラム・ポリシー」と合わせて三つのポリシーの内のひとつ。
参照:https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1369248.htm
「卒業認定・学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー),「教育課程編成・実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)及び「入学者受入れの方針」(アドミッション・ポリシー)の策定及び運用に関するガイドライン(平成28年3月31日 大学教育部会)より
※インストラクショナル・デザイン: 授業(インストラクション)を設計(デザイン)する目的は、授業をよりよくするためです。よりよい授業にするとは、効果を高め、効率よく、魅力的な授業にすることだと考えられています。授業の目標にクラスみんなが到達し(効果)、なるべく短時間でそれを成し遂げ(効率)、「もっと学びたい」という気持ちで授業を終わる(魅力)授業を作りだす授業設計の考え方。
稲垣 忠・鈴木克明(編著)北大路書房 教師のためのインストラクショナルデザイン 授業設計マニュアルVer.2